
私は北村永子と申します。現在、移動販売という形でパン屋を営んでいます。もともとは都内のベーカリーカフェで働いていましたが、次第に「もっと人の近くで、直接届ける仕事がしたい」と考えるようになりました。
店舗型のパン屋は確かに魅力的です。ただ、場所に縛られてしまう分、来てもらう前提の商売になります。それに対して移動販売は、自分からお客様の生活圏に入っていける。そこに強い可能性を感じました。
開業を決意したのは30代半ばの頃です。思い切って会社を辞め、軽バンを改装して販売車を作りました。最初は資金も限られていましたが、地元の工務店や知人の力を借りて、なんとか形にしました。
パン作りの技術は前職で培っていましたが、経営はまったくの初心者でした。仕入れ、価格設定、ルート選び、すべてが手探りでした。それでも「自分で決めて進める」という感覚は、これまでにないやりがいでした。
移動販売スタイル
現在は週に5日、決まったルートで販売しています。住宅街や小さな商店街、時には高齢者施設の前など、場所はさまざまです。
私のパン屋は、ただパンを売るだけの場所ではありません。常連のお客様との会話も大切な時間です。「今日は孫が来るから多めに買うね」といった何気ない一言に、日常の一部として受け入れられている実感があります。
パンの種類は日替わりで20種類ほど用意しています。食パンや惣菜パンはもちろんですが、季節限定の商品も人気です。例えば秋にはさつまいもやかぼちゃを使ったパンを増やし、冬には温かみのあるシチューパンを出すようにしています。
移動販売の良さは、反応がすぐに分かることです。売れ残りやお客様の声をもとに、翌週にはラインナップを調整できます。このスピード感は、店舗型にはない魅力だと感じています。
私が大切にしている地域との関係
移動販売を続ける中で、最も大きな支えになっているのは地域の方々です。特に高齢の方にとっては、買い物そのものが負担になることもあります。そうした方々の元へ直接伺えることに、仕事以上の意味を感じています。
あるお客様は、毎週同じ時間に私を待っていてくださいます。「あなたが来るのが楽しみなの」と言っていただいた時、この仕事を選んで良かったと心から思いました。
また、地域のイベントにも積極的に参加しています。小さな夏祭りやマルシェに出店することで、新しいお客様との出会いも増えました。単なる販売ではなく、地域の一員として関わることが、信頼につながっていると感じています。
一日の流れ
朝は4時半に起きて仕込みを始めます。パン生地をこね、発酵させ、焼き上げるまでに約4時間。8時頃には販売車に積み込み、最初の販売場所へ向かいます。
午前中は住宅街を中心に回り、昼過ぎには一度休憩を挟みます。午後は別のエリアに移動し、夕方まで販売を続けます。帰宅後は翌日の準備と売上の整理を行い、22時頃には就寝する生活です。
体力的には決して楽ではありませんが、自分のペースで働けること、そして直接お客様の反応を感じられることが、大きなモチベーションになっています。
移動販売のリアル
移動販売は自由な働き方に見えるかもしれませんが、実際には天候や売上に大きく左右されます。雨の日は客足が減り、売れ残りも増えます。そのため、天気予報を見ながら仕込み量を調整することが重要です。
また、場所によって売れる商品も異なります。ファミリー層が多いエリアではボリュームのある惣菜パンが人気ですが、高齢者が多い地域では柔らかいパンや甘さ控えめの商品が好まれます。
こうした違いを把握し、柔軟に対応していくことが経営の鍵になります。試行錯誤の連続ですが、その分、自分の成長を実感できる仕事でもあります。